日々の雑感〜バイクのキックスタートを知らないオジさん達

昨年9月、43年の長きに渡り生産されたYAMAHAの単気筒バイクSR400が生産終了を迎えました。いまやバイクは原付き車でもセルスタートが一般的ですが、SRシリーズは最後までキックスタート・オンリーで販売された稀有な存在でした。

1976年の4st エンデューロレーサーTT500(一般市販型:XT500)が元祖(?)な単気筒エンジンですが、当時2st 125ccバイクのキックスタートしか経験していない高校生(ジブン)には単気筒500cc4stエンジンのキックスタートには悪戦苦闘、苦悶の末の始動経験でした。当時の国産車には珍しいデコンプ(圧縮抜き)レバーが搭載されていて、初めて眼にするモノに使い方がわからず使い方とキックスタートの方法を”まじめに”習ったのはこのときが初めてだった気がします。実際の処コツさえ掴めば馬鹿力は必要なくて...

「キックスタートさせる時のクランクの位置を見極めて、勢いよく」

ただそれだけなんですが、最近時々見かけるキックスタート(ほとんどはSRなんですが)のオーバーアクションや折れよとばかりにキックアームに全体重載せて踏んだり、やみくもにヒステリックなキックをくれてるのがいい歳したオジさんだったりするのがなんだか悲しいです。極めつけは、そんな間違ったキックスタートをYoutubeで自慢気に紹介してて「正しいキックしてください、折れますよ」なんてコメント蘭に書かれてなお逆ギレしてる本人が嘘か誠か「某レース屋さんでパーツ製造&メカしてた」なんてあるとこれは恥ずかしい...。

原付きバイクやオフロード車さえセル付きになって久しいし、若い頃は2stレーサーレプリカかマルチシリンダー車しか経験が無いベテランなオジさん達が、郷愁なのかSRとかビッグシングル車に乗ってみようとすると途端に見ていて恥ずかしい思いをしたりします。

ジブンは30年前にHONDA XL500SエンジンをCB250RSにムリクリ搭載した改造車作って走ったり、XL500Sオリジナルと都合2度所有して、そこにはキックアーム連動のオート・デコンプなるものが付いていたんですが、かえって「圧縮上死点」を探るジャマになったりしたので撤去、それでもコツさえ掴めていればキックスタートに何ら問題ありませんでした。

「オート・デコンプ」と言えば...1980年のXRシリーズから全車種標準搭載されてて、実際エンデューロレースで使っていたハイコンプ改造XR200Rだと始動性自体がかえって悪くてやはりオート・デコンプは撤去、ただ上り坂でスタックさせると再始動がエラく大変で、そんな時キックスタートの践みドコロを探るには...クラッチ切らずに上り坂を後ろ向きに下ってタイヤがロックしたところ、そこが「圧縮上死点・過ぎ」なので前ブレーキ、クラッチ切って(出来ればニュートラルにして)キックスタートなんて技も使ったりしてました。さらに「一発プラグかぶり」なリスクもありますが、経験上ヒートしてるエンジンならば「アクセル全開」での再始動が火が入りやすかったですね。

 

 

勘違いなんでしょうが、キックスタートのときクランクを回し「圧縮上死点で止めて」おもむろに全体重乗せて馬鹿力にモノ言わせてクランク回そうとするヒトはけっこう多いです。
この場合は、クランクが圧縮上死点を乗り越える直前に圧縮圧でピストンを押し戻されてわずかに逆転して停止した位置、実のところ「圧縮上死点・直前」だったりします。
小排気量のバイクであれば回せないことはないでしょうが、500cc以上のビッグシングル等ではかなり難しく、こんな位置で力任せにキックスタートさせていたらキックスターター系のギアに過大な負担が掛かり、最悪ギアの破損もしくはキックシャフトの変形が起きます。

正しいキックスタートは「圧縮上死点・過ぎ」です。圧縮上死点を乗り越えたピストン位置なら比較的軽い力でもクランクを勢いよく回せます。ピストンが圧縮上死点を乗り越えるためのデコンプ(圧縮抜き)操作なのですから使いドコロを理解し、身に馴染ませておくことが肝心です。また小排気量でも圧縮比12以上のハイコンプエンジンでは、大排気量車同様なかなか圧縮上死点・直前からのキックスタートは手強いですし、機械強度が比較的低い分破損する確率は跳ね上がりますからさらに注意が必要です。(そんなジブンも大昔、XR200Rでのレース中にスタックからの再始動でキックスターターのドリブン/ドライブギアを1回づつ破損させたことがあります。慌てるとロクなことありません。)

それから、2stエンジンだと比較的圧縮比が低いのでシャカリキ連続キックが通用する場合もありますが、4stエンジンでは”無謀”なだけでなくチューンドなエンジン程、失火から盛大なケッチンを食らう可能性が高く、身の危険、機械破損の危険にさらされるので要注意です。「キックスタートで(クランクの回転に)勢いをつける」のに「回すことを意識して」というヒトもいますが、ケッチン予防にはなるべく早くキックペダルから足を離すのが肝心なので「踏み抜く」くらいの意識の方が良いやもしれませんね。(最大のケッチンはKAWASAKI 350TRに乗ったとき、空飛んだことがありました。2stだってビッグシングルでは怖い思いすることはあります。)

以上、エラそうな講釈のバイクのキックスタートでした。