HONDA XR系2バルブ縦型単気筒エンジン(1970〜)の系譜

歴代のXR185/200/200Rシリーズに搭載され、最新のCRF230に積まれている2バルブシングル縦型エンジンは、1970年1月発売のCB90/(同5月発売Benly SL90)に搭載された89ccエンジンを始祖とし、ほぼ基本設計のまま既に40年あまりの長きに渡って使い続けられる長寿エンジンのひとつでした。

ここでは、この類い希なる2バルブシングル縦型OHCエンジンを、XR200Rに連なる変遷として眺めてみます。

 

1975 Honda XL175

1970 Benly SL90K

1970年1月発売のCB90に遅れる同5月 Benly SL90は、モデルチェンジ(1969:水平シングルエンジン搭載で登場)を機会にダブルクレードルフレームに、89cc(48x49.5mm )の2バルブシングル縦型OHCエンジン/5段変速速仕様を搭載しました。これが40年近くを経て基本設計を受け継ぐMD33E/ME09Eエンジンの始祖にあたるエンジンです。輸出仕様ではMotosport SL100 (99cc)として排気量変更されています。
※仕様:全長 1880mm 全幅 810mm 全高 1075mm 軸間距離 1220mm 重量 98kg
SOHC 89cc (49x49.5mm) 圧縮比 9.5 出力 9ps/9500rpm  トルク 0.75kg*m/7000rpm
※プロダクツコード:110
※フレームシリアル:SL90******* /エンジンID:SL90E

1975 Honda XL175

1971 Benly SL125S

排気量を122cc(56x49.5mm)に拡大したエンジンは、前年発表のSL90からのボアアップ版ではなく再設計されています。(ピストンピン径1mmアップ、クランクケース内部の仕様変更その他)理由は明らかでありませんが、排気量増時の強度アップによるものと言われています。
※仕様:全長 1905mm 全幅 810mm 全高 1070mm 軸間距離 1250mm 重量 91kg
SOHC 122cc (56x49.5mm) 圧縮比 9.5 出力 12ps/9000rpm トルク 1.0kg*m/8000rpm
※プロダクツコード:331
※フレームシリアル:SL125S******* /エンジンID:SL125E

1975 Honda XL175

1973 XL125 K0

SL125の後継として登場したXL125 K0は、シングルクレードルのフレームとなりより大柄な車体廻りに変更されましたが。エンジンは旧来の122cc (56x49.5mm)版2バルブシングル縦型OHCのままでした。
※プロダクツコード:365 (K0/K1) /フレームシリアル:XL125******* /エンジンID:XL125E-1000001

1976 XL125 76

1975年国内発表のXL125(輸出仕様は1976年)は、旧来エンジンでの、クランク内圧縮背圧、一体構造シリンダヘッドの問題等を改修した新設計の124cc(56.5x49.5mm) エンジンを搭載。2ピース構造のシリンダヘッド構造、新型アップマフラー、吸気系へのアトマイザープレート追加で出力を1ps向上させました。
※プロダクツコード:382 (76/77/78) エンジンID:XL125E-1200001
※仕様:全長 2090mm 全幅 830mm 全高 1110mm 軸間距離 1310mm 重量 108kg /SOHC124cc(56.5x49.5mm) 圧縮比 9.4 出力 13ps/9500rpm トルク 1.0kg・m/8500rpm

 

1975 Honda XL175

1978 XL125S

1978年国内発表のXL125S(輸出仕様は1979年)では、さらに高回転での信頼性向上を目指し、オイルポンプ強化、カムシャフトブッシュ追加、アウターローター/CDI点火方式への変更等が施され、新たに6速ミッションを組込んだ新設計エンジンを投入されました。これらの大改修を受けたJD02E型エンジンが、後のXR185S/XR200/XR200R直系のエンジンです。また車体側ではフロント200mm、リヤ165mmのロングストロークサスペンション、アンダーガード等、SL以来のデュアルパーパスバイクから、オフロードバイクとしての装備を充実させました。出力ダウンに関しては当時の排ガス・騒音規制対応によるものです。
※プロダクツコード:437 (79/80/81)
※80年モデルからフレームシリアル:JD020 /エンジンID:JD02E(国内仕様:L125SE)
※仕様:全長2095mm 全幅840mm 全高1185mm 軸間距離1390mm 重量 106kg  /SOHC 124cc(56.5x49.5mm) 圧縮比 9.4 出力 12ps/9500rpm トルク 0.97kg・m/8500rpm


XL125S (1980 model)

 

1975 Honda XL175

1973 XL175 K0

XL125 のパフォーマンスアップ版として、排気量を173cc (64x53.8mm)に拡大したXL175が1973年に登場し使い勝手の良いデュアルパーパスバイクとして海外で受け入れられていきました。
※プロダクツコード:362 (K0/K1/K3)
フレームシリアル:XL175-1******
エンジンID:XL175E-1

1976 XL175

XL125 K2のエンジン設計変更に伴ってモデルチェンジ。
※仕様:全長 1905mm 全幅 810mm 全高 1070mm 軸間距離 1250mm 重量 91kg /SOHC122cc (56x49.5mm) 圧縮比 9.5 出力 12ps/9000rpm トルク 1.0kg*m/8000rpm
※プロダクツコード:391
フレームシリアル:XL175-5****** /エンジンID:XL175E-5

 

1975 Honda XL175

1979 XR185

同年本格的エンデューロモデルXR を名乗る最初の車体として、鮮烈なTahitian Red & Blackをまとって登場しました。 エンジンはXL125S (JD02)の排気量を180cc(63x57.8)まで拡大、同時期発売のXL185Sに対して、高圧縮比(9.2→10.0) 、2mmボア径アップのキャブレター(PD14B→PD31A )等により、出力を向上(14.3→18ps)させ、6速ミッションを装備、サスペンションもロングストローク化し、軽量な車体(98kg)と相まって悪路走破性は格段に増しました。XR185は1979年のみの希少なオンリーイヤーモデルです。
※フレームシリアル:ME02E-500056〜 /エンジンID:ME02E-500061〜

1980 Honda XR200

1980 XR200

「軽くてスリム、壊れずタフで、自由に操れる!」バイクとして認知され、排気量を195cc(65.5x57.8)に拡大して1psの出力向上(18→19ps)を果たします。その後モノショックのXR200R登場以後も1984年までツインショックのXR200として併売されていきます。
※XR185 79モデル、XR200 80/81/82/83モデルは共通プロダクツコード:446
※フレームシリアル:ME02-5100012〜 /エンジンID:ME02E-5100012〜
81年以降はフレームシリアル「ME020」となります。また84モデルのみフレームシリアル:MC010-EK50001〜/エンジンID:MC01Eが与えられています。

 


XR200A (1981 model)

 

 

1981 Honda XR200R

1981 XR200R Rb

80年代初頭、米国エンデューロシーンは最盛期を迎え、各社から精鋭のエンデューロマシンが登場する中、ホンダはワークスモトクロッサーRCで高性能を発揮したプロリンク・サスペンションをXRシリーズに投入します。(以降モデル名語尾にR付記、同年モデル(Rb)では、XR80/100/200/200R/250R/500Rの6モデルが投入されました)
※ME0405BK000037〜 /エンジンID:ME04E

1981 Honda XR200R

1982 XR200R Rc

-車体仕様変更点-
・ライトマスク/サイドカバ−;(白:NH0)
・サイドカバ−ロゴ仕様変更
・チェーンガイド;樹脂ローラー → 樹脂スライダー
・リヤショックサブタンク;側面フィン廃止
※ME0400CK100001〜 /エンジンID:ME04E

1981 Honda XR200R

1983 XR200R Rd

-車体仕様変更点-
・ボディーカラー:フラッシュレッド(R119)
・ライトマスク/サイドカバ−;(Y5)
・サイドカバ−ロゴ廃止
・シート/テールバッグカラー変更( PB5L )
・シートロゴ仕様変更( 200R → XR )
・スイングアームロゴ仕様変更
※ME0405DK200001〜 /エンジンID:ME04E
※XR200R 81/82/83モデルは共通プロダクツコード:KA2/車体コードME04で識別されています。

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1984 Honda XR200R

1984 XR200R Re

車体側にフレーム補強/軽量化、スイングアームのアルミ軽量化、シートポジションのモダン化を施す一方、飛躍的な高出力化を狙い 4バルブRadial Four Valve Combustion chamber (RFVC) ヘッド、199cc、デュアルキャブレター/デュアルエグゾースト配置で超ショートストロークの新設計エンジンを搭載しましたが、エンジンの過激な出力特性はWoods Riding に必要なトラクション性能を葬ってしまい扱いにくいホットモデルと称されました。
※ME050*EK000006〜
※ エンジンID:ME05E /ME05E-5000005-

1984 Honda XR200R

1985 XR200R Rf

-車体仕様変更点-
・タンクロゴ変更:
※ME050*FK100001〜
※エンジンID:ME05E /ME05E-5100005-
※XR200R 84以降全モデルはエンジンID:ME05Eを与えられていますが、84/85モデルのみエンジン仕様は全く異なります。
※XR200R 84以降全モデルは車体コードME05に属しますが、84/85モデルは共通プロダクツコード:KK0で識別されています。


 

1986 Honda XR200R

1986 XR200R Rg

従来の2バルブエンジン(ME04E)の特性が見直され86年モデルで復活、エンジンIDこそME05Eと改称されていますが、そのほとんどの構成部品・仕様は従来のME04Eを踏襲しています。1983年発表のTLR200に搭載されたMD09Eや、XL125R(JD04 1985.6)、XL125R/200R (JD16/MD29 1993.6)ではME04Eの不具合の幾つかを解消する改良策が施してありましたが、これ以降XR200Rのためのエンジンが新設計されることはありませんでした。また車体関連ではエンジン下方を繋ぐフルチューブフレームに強化され、軽量・細身で高強度なクロモリスイングアームの採用、シートポジションの改善など時代に対応した部分もあれば、前後ブレーキが最終型にいたるまでディスク化されないなど、中途からは初心者入門用に割り切られた感のあるモデルに位置づけられました。
※ME050*GK200001〜
※エンジンID:ME05E / ME05E-5200008-
※XR200R 86以降モデルは共通プロダクツコード:KT0で識別されています。

 
 
1987 model Rh
※ME050*HK000001〜
※ME05E-5300003-
1988 model Rj
※ME050*JK000001〜
※ME05E-5400002-
 
(No Model Setting)
 
1989 model
-
 
1990 model Rl
※ME050*LK500001〜
※ME05E-5500001-
 

 
1991 model Rm
※ME050*MK000001〜
※国内限定販売モデルのみ前輪ディスクブレーキ装備
1992 model Rn
※ME050*NK000001〜
※国内限定販売モデルのみ前・後輪ディスクブレーキ装備
 
 
1993 model Rp
※ME050*PK000001〜
1994 model Rr
※ME050*RK000001〜
 
 
1995 model Rs
※ME050*SK000001〜
1996 model Rt
※ME050*TK000001〜
 
 
1997 model Rv
※ME050*VK000001〜
1998 model Rw
※ME050*WK000001〜
 
 
1999 model Rx
※ME050*XK900001〜
2000 model Ry
※ME050*YK900001〜
 
 
2001 model R1
※ME050*1K000001〜
2002 model R2
※ME050*2K000001〜
2003 Honda CRF150F/CRF230F

2002 Honda CRF230F
(2002〜2020)
 

新たな系譜CRF230F(ブラジルホンダ)が搭載する排気量223cc (65.5x66.2mm)の2バルブ・シングルエンジン(ME09E) は、1993年発表のJD16E/MD29E (XL125R/200R)を経て新設計されたMD33E (1997 SL230)をベースとして、中低速ピックアップに優れるKEIHIN PD26キャブ装備等でチューン。写真は2008年モデル。
 

 
 
XL125S
XR185
XR200/R
TLR200R
CRF230F
Bore
56.5
63
65.5
65.5
65.5
Stroke
49.5
57.8
57.8
57.8
66.2
Capacity,cc
124.11
180.18
194.76
194.76
223.06
Wrist Pin, mm
15
15
15
15
15
CR
9.4
10
10
9
9
Power,
bhp/rpm
9.7
9500
18
9000
19
9000
11.8
6500
18.4
8000
Torque,
lb-ft
7.09
8000
11.49
7500
11.51
7500
11.6
4000
13.87
6000
Carb bore, mm
22
24
26
22
28
Primary reduction
21/70
3.333
3.333
21/70
3.333
21/70
3.333
22/68
3.091
1st Gear
3.083
3.083
2.769
2.769
2.769
2nd Gear
1.941
1.941
1.941
2.062
1.941
3rd Gear
1.400
1.450
1.450
1.5
1.45
4th Gear
1.130
1.130
1.130
1.13
1.148
5th Gear
0.923
0.923
0.923
0.923
0.960
6th Gear
0.785
0.785
0.785
0.785
0.812

 

 
XL125S
XL185
XR200/R
TLR200R
CRF230F
Inlet Valve
14711-
437-000
14711-
437-000
14711-
437-000
14711-
KY2-000
 
Diameter,mm
30
30
30
27
 
Exhaust Valve
14721-
437-000
14721-
437-000
14721-
437-000
14721-
KY2-000
 
Diameter,mm
25
25
25
20.5
 
Cam
14101-
437-000
14101-
437-000
14101-
446-000
14101-
KJ2-000
14100-
kps-900
Inlet Valve Open
10 BTDC
10 BTDC
15 BTDC
0 BTDC
10 BTDC
Inlet Valve Closes
 
40 ABDC
40 ABDC
45 ABDC
30 ABDC
40 ABDC
Exhaust Valve Opens
40 BBDC
40 BBDC
45 BBDC
35 BBDC
35 BBDC
Exhaust Valve Closes
10 ATDC
10 ATDC
15 ATDC
0 ATDC
10 ATDC
Inlet Lobe Height
31.7
31.7
31.91
31.07
 
Exhaust Lobe height
31.3
31.3
31.57
30.67
 
Inlet Lobe base dia
 
 
25.1
25.04
 
Exhaust lobe base dia
 
 
25.0
25.17
 
RH journal
19.97
19.97
19.97
19.9
 
LH journal
33.96
33.96
33.96
33.95
 
Model Name
XR200R
SL230
FTR223
XL230
CRF230F
ID
 
BA-MD33
BA-MC34
BA-MC36
 
Engine ID & Type
ME04E
ME05E
MD33E
air cooled 4 cycle OHC 2 valve single
ME09E
Displacement, cc
195
223
Bore X Stroke, mm
65.5ラ57.8
65.5ラ66.2
Compression ratio
10
9
Max Power Bhp/rpm
19 / 9000
19.73 / 7500
18.75 / 7000
17.75 / 7000
18.4 / 8000
Max torque lbft / rpm
11.5 / 7500
15.5 / 6000
15.5 / 6000
14 / 6000
13.87 / 6000
Carburettor
26mm PD
VE3A
VE3DA
PDC7A
26mm PD
Starting system
Kick
Electric
Gearbox
6 Speed
6 Speed
5 Speed
5 Speed
6 Speed
1st gear
2.769
3.083
2.769
2.769
2.769
2nd gear
1.941
2.062
1.722
1.772
1.941
3rd gear
1.45
1.45
1.263
1.263
1.45
4th gear
1.13
1.13
0.96
0.96
1.148
5th Gear
0.923
0.96
0.814
0.814
0.96
6th Gear
0.785
0.814
 
 
0.812
Primary Reduction
3.33
3.09
3.09
3.09
3.09
 
※2002年に発表されたCRF230F(ブラジルホンダ)は、2020年現在でも生産される長寿モデルとなっています。
 

2018 Honda CRF250F
(2018〜)

十数年の時を経て、また新たな系譜CRF250F(ブラジルホンダ)が生まれました。
搭載する新設計の排気量249.58 cc (71x63.03 mm)の4バルブ・シングルエンジン(ME13E) は、フューエルインジェクションで駆動する。
 
レース仕様の水冷ユニカムエンジン搭載のCRF250R、CRF250XにはそれぞれME10、ME11の型式が振られており、2019登場の水冷DOHCエンジン搭載の新型CRF250RがME12にあたります。
 
ちなみに「ME」の型式番号モデルを並べて見ると...
ME01:1980 XR250R
ME02:1979 XR185 / 1980 XR200
ME03:1980 CR250R
ME04:1980 XR200R
ME05:1984〜2002 XR200R
ME06:1990〜1993 XR250R
 
ME07:1984  TLR250
ME08:1994〜   XR250R
 
ME09:2002〜   CRF230F
ME10:CRF250R
ME11:CRF250X
ME12:2018 CRF250R
ME13:2018 CRF250F
基本的に車体の型式として用いられ必ずしもエンジン型式と同一ではありません。