グローバル企業というのはこんなモノです〜富めるアップル、病むアメリカ

 トヨタ、日産、ホンダをはじめ、日本の企業の多くが「生き残りを掛けて」グローバル化に舵を切って久しいですが、企業の発展と(少なくとも国内の)雇用が必ずしもリンクしない事はこの十年で明確になっています。政府が「バカにも解るグローバル戦略」以下の頭しか持たないなら、いずれアメリカの二の舞いになる気がします。

富めるアップル、成長の果実は素通り 苦悩する米国 

 「店舗貸します」。米アップル本社のあるカリフォルニア州クパティーノ市から車で30分も走ると、トヨタ自動車と米ゼネラル・モーターズ(GM)の合弁工場があったフリーモント市に着く。工場閉鎖から1年余。市内には空き店舗や空き家が目立つ。業績が好調なIT(情報技術)企業が集まるシリコンバレーの一角とは思えない光景だ。スマートフォン(高機能携帯電話)「iPhone(アイフォーン)」などを次々とヒットさせ快進撃するアップル。15年前は身売り交渉をしていた企業が、スティーブ・ジョブズ氏の経営トップ復帰を機に復活。株式時価総額は5日時点で3463億ドル(約27兆円)と、米国首位の石油大手エクソンモービルに迫る。業績も4~6月期の純利益が前年同期の2.2倍の73億ドル(約5700億円)と絶好調。さぞや地元経済は潤っていると思いきや、実はさほどでもない。

■雇用も販売も海外
もちろん、本社周辺では新本社建設などを当て込んで賃貸物件の家賃が急上昇しているが、そうした地域はごく一部。クパティーノ市が属するサンタクララ郡の失業率(6月、原数値)は10.3%と全米の9.3%(同)より悪い。なぜ、こんなことが起こるのか。それは、海外頼みのアップルの事業構造に理由がある。まずは生産が海外頼みだ。人気製品の生産は台湾の受託製造サービス(EMS)大手に任せ、米本社は戦略立案や設計、ソフト開発に特化している。

そして販売。全社売上高に占める海外の割合は前年が52%だったが、今回は62%を突破。直営店の新規出店も海外中心だ。結果的に雇用も海外で増える。アップルは昨年10月時点で約4万9000人の従業員を抱えるが、半数以上が直営店勤務。米国内で雇用が増える余地は小さい。
本社でも技術者を中心に外国人社員が増えた。あるソフト開発エンジニアは「優秀な外国人が増えた。難点は彼らの英語が分かりにくいこと」と苦笑する。

■政府より“金持ち”
アップルの売上高は海外が6割以上を占める。米政府よりアップルの方が“金持ち”――。債務上限引き上げ法案で米議会が紛糾した7月末、インターネット上では、アップルの手元資金と、米財務省が毎日発表する現金残高の比較が話題となった。アップルの6月末時点の手元資金は761億ドル(約6兆円)で、米政府の現金残高を上回る。しかし、その潤沢な資金も米国内では使われない。アップルが海外で稼いだ現金は6割が米国に送金されずに海外に残っている。

これはアップルだけではなく、米国のIT企業に共通する。米ムーディーズ・インベスターズ・サービスは6月、米IT大手11社が海外に保有する現金が向こう3年で現在の2倍にあたる2380億ドル(約18兆6500億円)に膨らむと予測した。IT企業が好業績に沸いても、地元経済が潤わない構図がここにある。米主要500社の4~6月期決算は純利益が前年同期に比べ10%増と7四半期連続の増益だが、米国の失業率は9%台と高止まりが続く。海外で稼ぐ大企業が潤っても米国経済を支える力は乏しくなっている。

(シリコンバレー=岡田信行  日本経済新聞)